常識を超える化粧品開発への道 細胞試験
2020.10.12
1.自分の肌で感じられたことをデータで実証するために
前回の開発ヒストリーで、原料の選定を行うまでの流れをまとめてご紹介いたしましたが、今回は、その次の段階の細胞試験についてご紹介します。
咲丘のこれまでの経験と、自身の肌での治験から、原料の選定を行い、12種類もの成分をすべて高濃度で配合した化粧品に確かな手応えを感じることができました。けれども、確証となるものが必要だと考えた咲丘が挑戦したのは「細胞試験」でした。じつは、通常の化粧品開発では、自社研究施設を持っていない小さな化粧品会社が「細胞試験」を行うことは異例のこと。ベストセラーコスメを開発してきた咲丘の長年の開発者人生の中でも初の試みでした。その理由は、費用も時間も大幅にかかってしまうからなのです。しかし、「化粧品の常識を超える」Re:CODEブランドを立ち上げたからには、製品の効果と肌への安全性を確証するためにも譲れないことでした。
「私の肌では確信がとれたものの、それだけでは裏付けにならない。細胞試験をやろう!と思ったのです。細胞試験を行なってくれる機関はいろいろありますが、私は世界的な製薬会社が使っていることで名高い試験機関で行いたかったのです。お願いするには、英語ができるだけではなく、専門知識が必要です。原料の作用機序、メカニズムなどを知っておかなくては発注できません。そこで第三者が出している慣れない英語の論文などを何冊も読み、全ては理解できなくともある程度は把握できた段階で、お願いすることにしました。今から考えますと、大手の化粧品メーカーならできるのでしょうけれど、いち個人では、かなりハードルの高いことをやり遂げようと思っていましたね。大変でしたが、私は最初から、あえてその壁を乗り越えると決意していました」
2.12種類、細胞試験用のための原料を取り寄せる
そうしてお願いすることになった細胞試験は、試験をスタートさせる前段階で、いくつものハードルがありました。細胞試験は生細胞にダイレクトに成分を添加して働きを確認します。ヒトの皮膚は死細胞の層である角質層(バリア機能)があるため、塗布するだけでは生きている細胞へダイレクトに作用する訳ではないのです。
そのため、まず試験機関からの条件は、フェノキシエタノールなどの防腐剤、防腐剤の役目も果たすBGなどの多価アルコールが入っていると細胞が働かくなってしまい正確なデータにならないという理由で、細胞試験を行う原料は100%パウダーで用意するように言われたこと。つまり、ビタミンは100%パウダーなのでそのままで使用できますが、それ以外の植物エキス、発酵エキス、ペプチドは「溶液」の状態で原料化されているため、細胞試験用に原料メーカーさんに特別な加工をお願いしなくてはならないということです。これが、咲丘にとって大変でした。取り寄せる原料メーカー先は国内や海外など様々。細胞試験を行うことがそもそも異例なため、基本は加工した原料を作ることすらしてもらえないいのが現状です。
特に海外の原料の取り寄せは、アプリケーションフォーム一つにも手間取り、遅々として進まず…。交渉の末、なんとか原料を加工してもらえることになりました。海外のメーカーさんとの間に入って交渉していただいた方に咲丘は「個人でこんなに大変なことをしているの?」と聞かれたと当時話していました。そして、1gにも満たない原料は、防腐剤などが入っていないため、冷凍か冷蔵で届きました。扱いも慎重に行わねばならず、できる範囲で咲丘自らが原料の運搬もし、試験をスタートしてもらうことができたのです。12種類の有効成分はそれぞれ別の会社のものですから、各原料メーカー当時のことを振り返っても、化粧品開発者人生で最大の難関の一つだったという思いがよぎると咲丘は話します。
3.予想を超えた試験結果に、広がる安堵の思い
「私のような小さな個人の案件では、ひとつのことを実現するためには、労力が必要になります。原料の取り寄せから、細胞試験機関への発注、実際の細胞試験、どれをとっても時間がかかりました。しかも、細胞試験そのものも、試験機関の専門家の度肝を抜いた12種高濃度の組合せを行なったのです。成分数も濃度も通常の細胞試験の常識から大きく逸脱して、すべてが多いので、培養条件がなかなか整わないということも大変だったようです。一つの原料につき48時間経過で濃度別に何パターンも計測し、データを出してくれました。そして、出されたのは、予想していた以上の効果でした。このデータを見たときに、自分が間違っていなかったと心から安堵できましたし、これまでの苦労が報われた瞬間でもありました」
細胞試験で結果が出たら、いよいよ製造メーカーを決めて試作に入ります。さらなる苦難が待ち受けていた最後の壁。この話は次回またご紹介します。